映像作品
心にグッと来たNHKドキュメンタリー 『夢のあとさき』
2023-09-19
週末の朝、何の気なしにNHKドキュメンタリーの再放送『夢のあとさき~日本遺構見聞録~』を観ました。軽い気持ちで観始めたのにもかかわらず、一気に引き込まれ、その内容は非常に心に染みてグッと来るものした。1ヵ月の療養生活の影響、登場する遺構が8月に訪れた北海道の夕張炭鉱に重なって見えたなど、色んな要因があったと思いますが、自分でもこれほど心が動かされるとは思ってもみなかったので、この何とも言えない率直な思いをブログに書き留めておかなくてはもったいないと思いました。
『夢のあとさき』~ 日本遺構見聞録
番組のタイトルに入っている “遺構”という言葉の意味は「過去のある時代に人によって作られた構造物で、その頃は栄えたものが現在では放置されていて残骸、ないしは痕跡が残されている状態の事」です。栄枯盛衰という熟語が表す状態にぴったりな言葉だと思います。
番組では6つの遺構に対してそれぞれ異なるテーマ・切り口を見出して紹介しています。それぞれのテーマと遺構は下記の6ヵ所です。
【門出】▽旧奈良監獄
【成長】▽神戸の遺構(須磨ベルトコンベヤーと摩耶観光ホテル)
【流転】▽横浜・根岸競馬場一等馬見所
【傷跡】▽岩手八幡平・松尾鉱山
【泡沫(うたかた)】▽北海道・リゾート跡地
【閉店】▽長崎・池島炭鉱
どの遺構の紹介もとても印象に残るものでしたが、今回は何度か訪れていて思い入れがある神戸と、訪れたことはありませんが個人的に一番印象に残った岩手の遺構について書き留めておきたいと思います。
成長 – 神戸の須磨ベルトコンベヤー
神戸のポートアイランドにはライブを観に何度か訪れたことがありました。阪神淡路大震災の時に液状化現象を起こして大きな被害が発生したこと、そんな中でも海から救援物資が輸送されたことなど断片的な知識はありましたが、そもそもどういった経緯で埋め立て地として開発されたのかなどは全く知りませんでした。
番組によれば「山、海へ行く」というスローガンのもと、1964年から2005年にかけて行われた大規模埋め立て事業によってポートアイランドは作られたそうです。神戸市にある高倉山を削った土でもって海の一部を埋め立てるという事業で、なんと土の運搬には地下に建設した全長14.7kmもあるベルトコンベアを使用したという、とんでもない規模の事業でした。大規模な埋め立てのために削って低くなった高倉山には須磨ニュータウンを建設するという、抜け漏れのない事業でもありました。
これほど壮大な計画が、私が中学生だった1964年から始まり40年もかけて行われていたこと、そんな事業があったからこそ今の神戸の繁栄があるのだなと思うととても胸が熱くなりました。みんなが明るい未来に向かって夢をもって頑張ろうと思えた時代だったなと思います。
しかし、一方でこの事業によって開発され一時は栄えた須磨ニュータウンも今では高齢化が問題となっているようです。土の運搬に使われた地下のベルトコンベアも現在では大半が撤去され一部が産業遺産として残されていますが、跡地の使い方も含め、色々と模索がされているようです。
傷跡 – 岩手八万平・松尾鉱山
8月上旬に訪れた北海道の夕張炭鉱と私が生まれ育った北九州の炭鉱と重ねて観てしまったのか、岩手県の松尾鉱山はこのドキュメンタリー番組の中で一番心にグサッとくるものでした。夕張と北九州は黒いダイヤと言われた石炭を掘削するエリアで、松尾鉱山は黄色いダイヤと言われた硫黄(農薬の原料)を採掘する鉱山という違いはありますが、その様子はとても共通点が多いと思います。松尾鉱山は19世紀末から1969年に存在した硫黄鉱山で、一時は東洋一と言われるほどの規模を誇っていました。全盛期には15,000人の人が鉄筋コンクリートのアパートに住んでいて、鉱員はその頃の日本の平均月収の10倍の給料を貰うなど、居住環境も待遇も最高なため、「雲上の楽園」とまで言われていたようです。
しかしそんな楽園生活は永遠ではありませんでした。戦後の復興期にプライドを持って開発したものが1971年に閉山後、硫黄を採掘した坑道から地下水が湧き出て、その原水に有毒なヒ素と鉄が含まれていることがわかったのです。鉱山からの原水をそのまま川に流すことが出来ず、半永久的に廃水の処理をするために鉄筋アパートの隣に汚染水の中和処理施設と汚染水を溜めておくダムが建設されました。終わりのない負の遺産としての傷跡が残ってしまいました。鉱山の閉山から50年以上経った現在でも年間5億円かけて2つの施設とダムで何とか汚染水の中和処理をし続けているそうです。1964年のオリンピックから一挙に日本が経済発展して行く時に、一方では経済発展の負の側面のようなことが起こっていたということを目の当たりにして、深く考えさせられました。
まとめ
色々と考えさせられたNHKドキュメンタリーでしたが、今後もいろいろな開発事業がスタートあるいは継続して行く中で、負の遺産を後世に残さないような「持続可能な開発目標」SDGsでなければいけないと思いました。そして、このドキュメンタリーを思い浮かべながらいつかこの6ヵ所の遺構を訪れたいと思っています。