メンタリング

夫婦のありかた – その社会的背景

2023-04-03

夫婦のありかた – その社会的背景

最近はプライベートでの友人との会話やメンタリング中に交わす会話として、夫婦のありかたが話題にあがることがよくあります。そしてその時は決まって、ご主人が昔ながらの男尊女卑の考え方から脱皮せず、何十年も妻が諦めて日常を過ごしているというようなエピソードが多く語られます。これからの時代を生きる人にとって、仕事や家事・育児に対してどのように向き合うか、そこで生まれるストレスをどのように対処するかは避けて通れない大きな問題だと思いますが、未だに女性の方が多く負担を強いられるという現状は見ていてとても歯がゆいものがあります。

今回はそんな現状が改善される何かのきっかけになればと思い、私が生き抜いてきた時代ごとの夫婦のありかたを、社会的背景と共にまとめてみたいと思います。

1980年代の夫婦のありかた

一昔前の昭和(1980年代)の夫婦は、夫が稼いで、妻は家庭を守るといったスタイルが一般的でした。女性は誰しもが「良妻賢母」であることを求められ、仕事をしていたとしても結婚すれば寿退社するのが当たり前で、そうすることを男性が求めているにも関わらず、そんな女性の働き方を「腰かけ」と揶揄する風潮もありました。

そんな時代ですから、家庭内での家事・育児の負担は言うまでもなく、女性が多くを担っていました。男性はと言えば、「男は外に出ると7人の敵がいる」といった言葉が広く認識されていることからも分かる通り、男性は家庭の外で大変なことを沢山抱えているということを殊更強調することによって、「家庭では一切何もしなくて当たり前」という特権のようなものを持っているかのように振る舞い、妻たちもそんなものかと疑問を抱かなかった時代でした。外で働くことを妻が希望すると、「家庭のことを完璧にやってから働け」という夫がとても多いという話もよく聞きました。

働く妻に厳しかったのは夫だけではありません。社会自体も妻が働くことを良しとしていないような仕組みが沢山ありました。例えば住宅ローン。夫であれば年収の34倍を借りることが出来ましたが、働く妻が借りようとすると年収の1/2しか借りられなかったのです。男社会を象徴するようなシステムですよね。欧米に比べて女性が社会進出するのが容易ではなかったのも仕方ありません。

そんな時代に私はどうしていたかと言うと、外資系で働いていたためか、いち早く「そんなのウソばっかり。社会には7人の敵なんていない。それは現実を妻に知られたくない男のプライド」だと思っていました(笑) また、私の主人は帰国子女第1号だったので、男女平等の意識が強く、結婚してからも私が働くことを応援してくれました。

そんな1980年代ですが、後半にポジティブなニュースが舞い込みました。昭和60年(1985年)に男女雇用機会均等法が成立し、昭和61年(1986年)に施行されたのです。これをきっかけにして、社会や日常生活の中で男性と女性が何故差別されるのだろうという意識を皆が持ち始め、その後流れが大きく変わるきっかけになりました。

1990年代の夫婦のありかた

段々と女性の社会進出が進んで来た平成(1990年代)は、これまで無意識に刷り込まれ疑問に思うこともなく従ってきた価値観=ブレインロックに女性たちが不満をあらわにする時代になりました。「女は男より劣る」、「家事育児は男の役割ではない」、「妻は夫に黙って従うもの」といった洗脳にも似た刷り込みを振り払おうと女性たちが奮闘しはじめた時代とも言えます。

もちろんその女性たちを待ち構えている道は決して平坦なものではありませんでした。昭和から平成へと時代が変わり女性の意識が変化していく一方で、何故か男性の意識はそれほど変わらないというねじれ現象が起きていたのです。相変わらず夫はただの会社人間でいることが許され、働くことを選んだ妻は会社人間でいることに加えて、良き妻、良き母でいることを求められる中で、毎日を必死に生き抜いていました。夫の男女差別/男尊女卑的な考え方に対して不合理だと感じながらも、妻たちはなんとか日常のやるべきことをこなしていたのです。

その頃の妻の気持ちを代弁した(皮肉った)「亭主元気で留守がいい」というコマーシャルが大ヒットしましたが、そんな気持ちになってしまうのも仕方ないですよね。妻が外で働くことをたいして労うでもなく、その上完璧な妻・母でいることを求めてくるような夫に対しては、給料以外は何も期待しないので、なるべく家を留守にして欲しいという妻たちの心の叫びだったのでしょう。

では会社における女性の立場はどうだったかと言うと、少しずつ待遇が改善されて行ってはいましたが、完全に男女が平等になったかと言われると決してそんなことはありませんでした。「会議中に正論を吐く場合は小声で言いなさい」と女性に警告する男性上司がいたことからもわかるように、明らかに女性に対して上から目線で接する男性は少なくありませんでした。

2010年代の夫婦のありかた

そして平成/令和(2010年代以降)になると、家事・育児を手伝う夫が一般的になって来ました。「イクメン」なんていう言葉が生まれたのもこの頃です。ただ、欧米のような完全な家庭内の家事・育児の負担の平等が達成されたかというと、そこまでには至っていないのも現実だと思います。妻が本来担当するべき家事、子育てを手伝ってあげているというスタンスの夫も少なくなく、手伝ってくれてはいるものの、夫の当事者意識の低さに妻が不満を募らせているといったケースをよく見聞きしました。「男は稼いでなんぼ」という価値観は根強く残っており、家事・育児を平等に分担して妻とより良い関係を築くことよりも、生活の経済的な安定のために仕事を最優先にするのは仕方ないと思い込んでしまっている夫は未だに少なくないと思います。

そんな時にコロナ禍がやってきます。外出自粛の中の在宅勤務は、良くも悪くも働く夫婦に大きな影響を与えたと思います。日頃から積極的に夫が家事・育児に関わっていた夫婦にとっては、より強固な協力体制が築かれた一方で、同じようにずっと家にいるにも関わらず家事・育児に非協力的な夫を目の当たりにした妻にとっては、夫がよりストレスフルな存在になってしまったのではないでしょうか。

まとめ

本来仕事、家事、子育ては夫婦がそれぞれ分担して、その時の状況に応じて出来る方がやるというのが基本的な考え方ではないかと思っています。そこに両親との同居といった要素が加わっても、その都度夫婦で話し合ってどちらかに負担が偏りすぎないように分担を決めて行くことが最優先です。そのためには時間をかけてお互いに凝り固まったブレインロックを外す努力をすることが必須となります。お互いに「信頼関係を深めるためのコミュニケーション」を積極的に図り、相手への思いやりを言葉と態度で示して行くための行動力と実行力が求められるのではないでしょうか。